北海道浦幌町の職員さんが、研修で神山を訪れてくださり、
そのときの学びをレポートとして書いてくださいました!
前編はこちら
研修三日目は「WEEK神山」に宿泊しました。
部屋の窓からの景色は鮎喰川が一面に広がり、川のせせらぎも聞こえるなどとてもリラックスできる宿です。
全国や世界から様々な人たちが集まる神山町、滞在施設が無く困っていたところ、民間主導で町民の方々に出資を呼びかけ、この宿が立ち上がったのだそうです。
私たちが訪れた日は定休日だったので、キッチンを借りて徳島のB級グルメ「豆点玉」を作って食べました。
「豆点玉」は基本的にお好み焼きです。しかし、甘く煮た金時豆が入るという特徴があります。
食べた正直な感想は、ソースとマヨネーズがかかった段階で金時豆の存在はかき消されてしまい普通においしいお好み焼きでした。
この食事会の際には、偶然神山町にいた株式会社えんがわの代表であり、WEEK神山の立ち上げで中心となった隅田さんと株式会社プラットワークスの曽山さんが特別ゲストとして参加してくれました。
隅田さんのテレビ局時代の経験談もさることながら、曽山さんの趣味の話と中国万博での失敗談でその場は持ち切りでした。
隅田さんは「満場一致ほどうまくいかないことのほうが多い」と言っていました。
反対意見が多くてもそこにかける熱量があれば成功するのだと言います。
「満場一致」や「多数決」で決めることは悪いことではないけども、気を付けないと大切なものがぼやけてしまうということを言っているのだと自分は理解しました。
「人」を「良」くする「育」み「食育」
4日目はWEEK神山で「フードハブプロジェクト」について、まちの食農教育代表理事の樋口さんからレクチャーを受けました。
「フードハブプロジェクト」は「地産地食」を軸に、地域で育てて、地域で一緒に食べることを通じて関係性を豊かにし、神山の農業や食文化を次世代につないでいくという取組です。
北海道では広大な畑で大規模に運営するのが普通なので、「小さな食の循環」を目指すというのは北海道にはないものだと思いました。
フードハブプロジェクトの「食べる」部門として運営される「かま屋」では定期的に「産食率」という食糧自給率に似た数値を発信しています。
浦幌町の飲食店の「産食率」が気になるところです。
町外からのお客さんから浦幌町でおすすめの飲食店を尋ねられた時、戸惑ってしまうことがあります。浦幌町産の食材を食べられる飲食店が少ないなと感じているからでしょうか。「かま屋」のようなお店が浦幌にもあるといいなと思いました。
生産者と消費者のお互いの顔が見える「小さな食の循環」が浦幌町内にも広まるといいと思います。
「かま屋」で昼食を食べた後、吉沢さん宅で阿波晩茶の仕込みを体験させてもらいました。
この日は収穫した茶葉を煮て、手揉みする作業で、茶葉に傷をつけることで発酵を促進する工程です。
ひたすら茶葉を洗い、煮て、揉む、を繰り返しました。
単純作業は心が無になり、瞑想しているかのような感じになれるので個人的に好きです。
似たような雰囲気を感じるのは、みのりまつりの餅づくり作業。
いろんな人たちが一堂に会して、みんなで餅を作って、みんなでお餅を食べて、最近は手伝いに参加できていませんがあのお餅づくり雰囲気が大好きです。
吉沢さんからお土産に完成した阿波晩茶をいただきました。
帰ってきてから、普通に飲んだり、水出ししたり、氷出ししたり、お茶漬けにかけてみたり様々に楽しませてもらっています。
涓滴岩を穿つ
5日目は山仕事だから覚悟しておいたほうがいいと言われていたので、しっかり作業着を着て用意していました。
獣道のように細く、迷路のように入り組んだ道に迷いながら齋藤さんの所有する通称「オニヴァ山」に向かいました。
後からグーグルマップで道を探ったんですが、途中までストリートビューがあることにびっくりしましたが、おかげで次回は自力でお邪魔できそうです。
東京でIT会社に勤めていた斎藤さんは、自然との関わりや丁寧な暮らしを求めて神山に移住してきたのだそうです。
「オニヴァ山」では多年草化したお米や改装中の民家、山中のログハウス、水源地などを見学させてもらいました。
中でも水源地は、最初は倒木などに埋もれ、その場所がわからないほど荒れていたのだそうです。
齋藤さんは過去の地図を頼りに、人力で水源地の整備を始めました。
大きな機械を使わずとも、自分でできる範囲で少しずつ整備していった結果、現在ではかなりの水量が確保できる水源によみがえったのだそうです。
齋藤さんの暮らしを見て漠然と「自分も山が欲しいな」と思いました。
山の管理はとても大変なイメージもありますし、とても人力では維持できないと考えていました。
実際に目の当たりにしたオニヴァ山での生活はそんなイメージとは違って、やろうと思えばやれることばかりで、時間はかかりますが不可能なことは無いように思いました。
自分が自然の循環の一部だと感じられるような、ひと昔前のような生活はとても豊かで羨ましく感じました。
オニヴァ山で滝のような汗を流した後、神山バレー・サテライトオフィス・コンプレックスで神山塾についてレクチャーを受けました。
神山町を舞台に展開される地域人材育成事業である「神山塾」。
2010年から始まり、現在16期目が修了したそうです。
RELATIONの祁答院さんからは神山塾の沿革や参加者層の移り変わり、神山町に与えている影響などを客観的に分析した「神山塾」の話を聞くことができました。
「五感を磨く」ことを神山塾では重視しているそうです。
私も今回の研修の初めに「神山町を五感で感じてほしい」と言われていました。
五感を全開にしていろいろな生き方や考え方、働き方、暮らし方に触れることで自分の中の基準が作られていく、「自分のものさし」を築くことが神山塾の根幹にあるということがわかりました。
神山塾でいろんな人たちを見てきた祁答院さんは「結局は本人次第」だと言います。
神山塾はそれに気付くための場所でもあるのかもしれません。
5日目の最後に江田地区の棚田を見学しました。
棚田の文化が残るこの場所は、祁答院さんの始まりの場所だそうです。
耕作放棄が進み、美しかった棚田の風景が失われてきてしまっていたところに県内外の若者が参加する棚田再生事業が始まりました。
実践しながら昔ながらの知恵や技術を受け継ぎ、美しい棚田の風景を未来に伝えたいという取組の結果、現在も江田地区には美しい棚田が広がっています。
祁答院さんも棚田を守る活動に参加していて、人が集まれないときはほとんど一人で作業することもあったと言います。
そんな活動・経験が巡り巡って神山塾になったり、今の神山町を作ったりしているわけで、アートインレジデンスの時もそうでしたが、なにかを継続することで予想できないような結果を得ることがあるんだなと思いました。
自分軸で生きるということ
6日目は今までの5日間を振り返り、五感で感じた神山町を通して、今一度「自分」を見つめなおす時間でした。
いくつかワークの中で祁答院さんから「物事は大きく捉えすぎてはいけない」と言われました。
皆さんも自分の力の及ばない部分まで考えてしまうことが多いのではないでしょうか?
自分はどうにもならないことをあれこれ考えたり、他人を気にしすぎたりして自分の考え方ややりたいことがぼやけてしまうことがありました。
神山町で出会った人たちは、自分がやりたいことを自分のやれる範囲でやっている人たちばかりで、その自立した生き方が格好いいなと思いました。
他人の意見を気にしすぎたり、自分ではどうにもならないことまで考えたりしてしまっていた頃の自分は責任の逃がし場所や言い訳を探していたのかもしれません。
誰かの為にするのではなく、誰かの為に自分がしたいことをする。
自分の選択・行動に責任を持って、自分の手の届く範囲で実行する、「自分を軸に生きる」そんな生き方をしようと思いました。
今回の研修テーマは、
① 自分を知る
② 自分の役目を見出す
③ 浦幌町のより良い未来を描くために
の3つでした。
「①自分を知る」について、自分は変幻自在で、常に変化するものだと思います。
「自分とはこういうものだ」と決めつけるのではなく、自分の変化に興味を持つことが重要だと思います。
「②自分の役目」について、自分にしかできないと思えることをすることだと思います。
逆に「自分じゃなくてもいいかもしれない」、そう感じるものはどんどんほかの人に任せて、自分にしかできないことに力を注げるようにしたいと思います。
「③浦幌町のより良い未来」について、これは浦幌町に関わる人たちが「それぞれの役目」を果たすことで達成されるのではないかと思います。
町民それぞれのスタンドプレーが生む、本当の町おこし
神山町ができたのだから、浦幌町もきっとできるはずです。
そのためにまずは自分から、自分のできる範囲でやっていこうと思います。
あとがき
最近熱中しているゴルフに関連してこんな言葉があります。
「Play the ball as it lies.」
「あるがままのライ(状況)でボールを打つ」というゴルフの大原則を現した言葉です。
天候や芝の状態などの自然の在り様は変幻自在で、放たれたボールの行方もまた予測不能です。
自然の中で行われるスポーツである以上、そういった要素は仕方のないことであり、何が起きるか予測できないことがゴルフの面白さでもあります。
自分の知識や経験を基に、自らの意思で選択し、決定する。
カップまでの距離は?芝や周囲の状況は?今日の自分の調子は?
ゴルフではいろんな要素を基にその瞬間の最適な番手を自分で選択し、プレーします。
それは生きる上でも同じなのだと思います。
なんとなく毎日を、選択することなく、半自動的に過ごしてしまうことがあります。
そんなゴルフ、もとい人生では面白いはずがありません。
今回の神山研修で「選択する」ことを改めて学びました。
私はこれからも浦幌町で、あるがままに身を委ねながら、自分を軸に選択し続けていきたいと思います。
今回の研修でお世話になった、RELATIONの皆さん、神山町で出会った皆さんと6日間という長期の研修に送り出してくれた浦幌町教育委員会と浦幌町役場の皆さんに感謝します。
浦幌町の職員として、浦幌町に住む人間の一人として、私がどんな「選択」をしていくのか楽しみにしていてもらいたいと思います。
本当にありがとうございました。
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