今回は、最近台風やゲリラ豪雨など、激しい雨が降ることが多い東京から、西川がお送りします。
毎年、お盆を過ぎると思い出すことがあります。
それは、母の実家がある宮城県気仙沼市に住む祖父が、毎年、特産品のひとつであるサンマをたくさん送ってくれていたこと。
それを新鮮なうちに塩焼きにして食べるのが、秋の楽しみの一つでした。
母の実家は高台にあるため、震災の大きな被害は免れましたが、祖父はもう亡くなっていて、今ではそんなにたくさんの新鮮なサンマを手に入れることは、難しくなってしまいました。
と、ちょっと切ない話になりましたが、こんなことを書いたのは、今回自分にとっての「食」について記事にしたいな、と思ったからです。
銀座にある北海道
そのきっかけは、東京・銀座にある「お取り寄せダイニング十勝屋」というレストランで食事をしたことです。
このレストランをプロデュースしているのは、「北海道食べる通信」という、雑誌と北海道の食材がセットになった「食の体験型情報誌」を作っている、株式会社グリーンストーリープラス。
「十勝屋」という名のとおり、北海道十勝産のものを中心とした食材にこだわっているお店です。
十勝屋さんに連れて行ってくださったのは、株式会社代官山ワークスの代表であり、株式会社グリーンストーリープラスの取締役・プランナーでもある丸山孝明さん。
丸山さんとリレイションのお付き合いは、以前このサイト上でもレポートをお届けした、トークイベント「KATALOG NIGHT」にゲストとして参加していただいたことが始まり。
弊社の代表・祁答院が上京し、丸山さんと会食するときに、わたしもお相伴に預かったのです。
一皿一皿、お料理が出てくるたびに、その食材を作っているひとのエピソードを、丸山さんやお店の方が聞かせてくださいます。
衛星を駆使して作物を収穫している農家さんの話や、知的障害を持った人が携わるワイナリーの話。
どんな思いで作られ、どんな思いで選ばれた食材なのか。
わたし自身は、作り手の人に会ったことがないのに、まるで知っている人が作ったものを食べているような気持ちになりました。
その感覚は、わたしには覚えのあるものでした。
神山塾生として神山に滞在していた期間中のことです。
食材を扱う商店が町内に数カ所しかなく、そこに行くための交通手段も限られている神山では、
コンビニやスーパーに行って、自分のほしい材料を手に入れ、そのとき食べたいものを作って食べる、ということが東京と比べると簡単なことではありませんでした。
「神山スキーランド」での合宿中は、平日の朝晩はスキーランドの美味しいごはんを食べられますが、昼と土日の食事は、自分たちで調達しなければなりません。
最初の頃は、お昼に朝食の余りご飯で作ったおにぎりばかり食べていたことは今でも語り草(笑)。
そんなときに、スキーランドのお父さん、お母さんからいただいたうどんや押し寿司、
畑の収穫の手伝いに行ってそのお礼に、といただいた白菜やさつまいもなどの野菜のありがたさは忘れられません。
徳島滞在中には、そんなふうに身近な方が作ったものをいただいて、食べる機会がたくさんあったのですが、「十勝屋」さんのお料理は、そんな「いただきもの」のありがたい感覚を思い出させてくれるようなものだったのです。
「田舎」限定の体験だと思っていたのに、東京でもそんな食事ができるんだなあ、と感動しました。
都会で作り手の顔が見える食材を手に入れる方法
そんな感動の余韻をまだ残したなか、横浜で行われた株式会社代官山ワークスさん主催のマルシェにも足を運んでみました。
運河のそばの気持ち良い場所で行われていた横浜北仲マルシェは、出店者が60を超える規模の大きなもの。
台風の晴れ間で暑い中だというのに、たくさんの人で賑わっていました。
見て歩いていると、お店のひとが声をかけてくれます。
りんご、みかん、アカシア……などさまざまな種類の蜂蜜を、次から次へと味見させてくれた蜂蜜屋さんでは、シンプルな味わいが気に入ってクローバーの蜂蜜を購入。
また、徳島からのお店も発見しました。
日和佐燻製工房さんは、徳島県南で採れた魚を、保存料や着色料を使わずに燻製にしているそう。
こちらでは、試食させていただいたキビナゴの燻製を買いました。
ほかにも、山梨の桃農園さんが作ったフルーツスムージーや、山形県産の桃(7個で1000円!)などを購入。
どの買い物も、商品そのものだけではなく、お店の人との会話を通して、生産者やそれを消費者に届ける人の思いに触れ、それも含めた全体にお金を払うという感覚でした。
普段、食材を買うのは近所のスーパーマーケットがほとんどで、産地をチェックすることはあっても、それを作った人の思いに触れることはなかなかできません。
それが当たり前になっているなか、マルシェは、都会で作り手の顔が見える食材を手に入れることができる場なんだということを実感しました。
思い入れのあるひと皿
神山で、わたしは何人もの食にこだわりのある人と出会いました。
みんな単なる「グルメ」ではなく、いかに安心でおいしい素材を生産するか、どうしたら地域で作って地域で消費する仕組みを作れるか、というところから深く考え、それを実現するために行動し、料理の方法もワールドワイドに研究している人たちばかりです。
そのなかの一人に、「こういうものは食べないと決めているものはあるか」と質問してみたことがあります。
農薬を使っている野菜や、添加物の入っているもの、という答えが返ってくるのかな? と思いきや、その人は、「こういうものは食べないっていうより、こういうものが食べたいって思うようにしてるよ」と答えました。
わたし自身は、そんなに料理もしないし、食材に対するこだわりも、それがいつも最優先というわけではない、いわゆる普通の人間です。
丁寧に暮らしたい、地域を大事にしたい、という意識はあるものの、時間の制約や経済的な都合で、コンビニやスーパーで売っている出来合いのお惣菜を選ぶこともあるというのが正直なところ。
でも、「これは食べない」とか「こんな食生活じゃダメだ」と考えるのではなく、「こういうものが食べたい」という具体的なイメージがあることが大事なのだとすれば、わたしにとってそれは、「おじいちゃんが送ってくれたサンマ」だったり、「スキーランドのお父さんが作ってくれた鹿肉の燻製」だったり、思い出や、作った人や届けてくれる人の思いが込められたものです。
そういえば、今回、祁答院が丸山さんへのお土産として徳島から持ってきたものがあります。
それは、祁答院家の庭の木から採れたスダチ。
これからもっと収穫できそうとのことで、わたしも予約中です。
東京、徳島、北海道といった仕事でいまかかわりのある地域で、そしてそれ以外のいろんな場所で、一つずつ思い入れのある一品を増えていくことが、とても楽しみです。
この記事を書いた人
西川 萌子
東京常駐スタッフ。2018年にキャリアコンサルタント資格を取得し、神山塾生のキャリアコンサルティングも担当。最近、サーカスの曲芸を練習する機会があり、皿回しができるようになりました。次はジャグリングボールにチャレンジしようと目論んでいます。
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