神山で見たものとこれからのこと | KATALOG
神山で見たものとこれからのこと

神山で見たものとこれからのこと

ゲスト
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2023.11.10

みなさん、はじめまして。
北海道浦幌町役場の部田(とりた)です。

この度、浦幌町役場が実施する「地方創生先進地地域滞在型研修」に参加し、10月15日から20日までの6日間、徳島市・神山町に滞在しました。

神山町で活躍する様々な人の話を聞くこと、暮らしを体験することができ、終わってみればあっという間の研修でしたが、とても多くの刺激を受け、学びを得ることができました。

研修レポートの前に、簡単に私の自己紹介をさせていただきます。

私は生まれも育ちも北海道浦幌町で、高卒で浦幌町の役場に就職したため、ほとんど浦幌町のことしか知らない状態でこの30年間生きてきました。

役場に就職して今年で13年目。

経歴だけをみれば、もう立派な中堅職員です。
仕事もそれなりにできるようにはなってきましたが、なんとなく、このままでいいのかな……という漠然とした不安のようなものも日々感じており、新たな刺激を受け、仕事や働き方・生き方についての視野を広げたいと思い、この研修にエントリーすることを決めました。

今回は、「五感を磨き、思考を高め、主体性や行動力、想像力を養う」といった目的の研修でしたが、終わってみると、エントリーした時点で想像していた以上の体験や経験にあふれ、色々なことに五感は刺激されっぱなし、途中で思考が追い付かなくなるくらいのとても濃密な研修となりました。

北海道から徳島へ

10月15日の朝8時に浦幌町を出発し、飛行機を乗り継ぎ14時に徳島へ到着。

到着後はすぐさまリレイションの蔵本BASEへ移動し、今回の研修のオリエンテーションを受けました。その中で与えられた研修のテーマ(目標)は3つ。

①自分を知る!
②自分の役目を見い出す
③浦幌町のより良い未来を描くため!

オリエンテーションでは、主に「自分を知る」ためのワークを行い、自分の性質や特徴、価値観などを再確認しました。

普段生きている中では、自分について考えるということはなかなかしないため、大切にしている価値観や重要視していない価値観の順位付けなどをしてみて、自分のことながらあらためて整理してみると「なるほど」となる部分もありました。

いざ神山へ!

研修2日目。

この日からがいよいよ研修の本番です。

まずは、前日に引き続き徳島市内の蔵本BASEで神山プロジェクトのプロセスについてのレクチャーを受けました。
浦幌町と比較して人口もそれほど変わらない、経済規模としては浦幌町よりずっと小さい神山町ですが、なぜこんなにも活気があり、新しいヒトやコトであふれているのか、そのルーツから現在に至るまでを駆け足で辿りました。

近年は、浦幌町もまちづくりの先進地と言われるようになってきましたが、浦幌町のまちづくりと神山町のまちづくりでは、根本的に成り立ちが違うのだということをあらためて知ることができました。

子どもたちの教育を軸にした取り組みからスタートした浦幌の「真面目」なまちづくりと、
民間の国際交流事業からスタートした神山の自生的で「自由」なまちづくり。

今回の研修では、神山の色々な場所を見て、いろいろな人から話を聞いて、その違いを実感することとなりました。

午後からは実際に神山町へ行き、16日から19日までの4日間、まちづくりの中心人物・キーパーソンたちの話をお聞きすることができました。

神山初日は、あゆハウス(神山町にある唯一の高校「徳島県立城西高等学校神山校」の学生寮)で、神山つなぐ公社の高田さんから神山町地方創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」について説明を受けました。
総合戦略レクチャーでは、神山の現在に大きな影響を与えているプロジェクトの策定の過程や、そこから発生した数多くの事業やその成果をお聞きすることができました。

そのあとは大粟山で「神山アーティスト・イン・レジデンス(KAIR)」で作られた作品をめぐるアートツアー。

アートツアーでは、神山町のまちづくりの起点となった国際交流について、山を歩きながらの作品鑑賞を通じて体験することができました(作品の意図を理解することはなかなか難しかったですが……)。

見た中で特に印象的だったアート作品「神山金継」。

その中で印象的だったのは、アーティストの作品作りを手伝う神山町の人たちも、
作品については「よくわからん」という感じだということ。

視察中に偶然出会うことができた、通称“ニコライ”さん(神山出身で徳島市内に住みながら神山のボランティア活動を永年続けている方)たちとお話しをさせていただいて、「よくわからないけれど楽しいから一緒にやっているんだ」というその雰囲気がなんだかいいなあ、と思うと同時に、これがとても重要なマインドなのかもしれない、とも思いました。

ショッキングピンクがトレードマークのニコライさん。

この日の晩ご飯は、神山で以前食堂をされていた店舗「梅星茶屋」で、
神山塾の卒塾生たちと手作りのお好み焼きを食べました。
日本全国から様々な背景を持った人が神山塾に集まり、塾を卒業しても神山に残り、色々な生き方、働き方をしているんだということを実感し、短い時間ではありましたが、とても楽しいひと時を過ごすことができました。

頭もお腹もいっぱいになりました。

ご飯のあとは宿泊先の「moja house」へ。

古民家ゲストハウスでの一夜を楽しみ、朝は早起きして坂の下まで散歩しました。

私の実家は浦幌町の中でも田舎の方にあるのですが、
同じ田舎でも浦幌町と神山町とでは、見える景色が全然違ってとても新鮮でした。

moja houseから見た、朝もやに沈む神山。

Do Do Do Do!!

研修3日目。

この日はまず、KVSOC(Kamiyama Valley Satellite Office Complex)
通称「コンプレックス」にて、株式会社誉建設の鎌田社長と社員の大道さんから、「ホマレノ森プロジェクト」についてお話を伺いました。

大道さんも神山塾の卒塾生なのですが、昨日から会う人会う人神山塾の卒塾生ばかりで、神山の若い人は全員卒塾生なのではないかと錯覚してしまうほどでした……(笑)。

プレゼンの中でお聞きした、ホマレノ森プロジェクトの一環として古民家を整備した「ホマレノ森研究所『山西』」には神山最終日に行かせていただきました。

大工さんの勉強の場も兼ねて作られたという山西は、独創的なデザインでありながら、伝統技法を用いたり、内装材には伝統工芸品・阿波和紙を使用したりしていて、山の高いところにあるというロケーションも相まって、住宅の形をしたアート作品の中にいるような、不思議で素敵な空間でした。

次に神山に行ったときはぜひ泊まってみたい!

「山西」と「西山(一緒に研修に参加した職員)」。

午後は神山の宿泊施設「WEEK」にて、サテライトオフィスレクチャーとして、株式会社えんがわの隅田さんからお話を伺いました。

隅田さんからの自己紹介の後、いきなり言われたのが「PDCAサイクルではなく『DDDDサイクル』」。つまり「Do Do Do Do!!」。

座学よりもまず実行すること!そんな話からスタートし、「なんかすごい人が来たぞ……」と思いました(笑)。

役所というのは、何をやるにしてもPDCAサイクルの考え方に則って、丁寧かつ慎重に物事を進めていく、というのが基本の考え方としてあると思います。

この考え方は、良い面もたくさんありますが、隅田さんのお話を聞いて、
DDDDサイクルのように、スピード感をもって色々やってみる、というのも必要な考え方だと思いました。
お話を聞く中で、隅田さんのこれまでの経歴や実績はまさにDDDDの賜物なのだと感じました。

お話を聞いた中で印象的だったことがもう一つあります。
それは「しきい値(スレッショルド)」の話です。

例として挙げられたのは、東京本社と神山町のサテライトオフィス、どちらで働くことも選べる(自由な選択肢がある)として、本社勤めの人がサテライトオフィスで働いてみたいと思っても、それが実際の行動(移住)につながる「しきい値」は人によってかなり違うということ。

しきい値の話を自分に当てはめて考えてみると、私は一人映画や一人焼肉、一人旅など、いわゆる「お一人様」であれば割とフットワーク軽くなんでもできてしまう方なのですが、そこに誰かを誘って一緒に、となると一気にしきい値が上がってしまいます。
それは仕事においても言えることで、何かやってみたいことがあっても、人を巻き込んで、となるとなかなか言い出せなかったり、踏み出せなかったりします。
そこのしきい値をなんとか下げて、どれだけ行動に移していけるかどうかが自分の課題であると思うので、DDDDの精神で「何事もまずやってみる」ことを意識していこうと思いました。

隅田さんのお話は驚きの連続でした。

森とサウナと郁子さん

4日目は、神山で営業されていたビストロ「B&B On y va & Experience(旧:カフェ オニヴァ)」オーナーの齊藤郁子さんとの「ネイチャー体験活動」。

何をするのか詳しいことは聞かされないまま、道の駅で齊藤さんと合流し、山の中の細い道を通って「オニヴァ農園」というところへ。
軽自動車1台が通るのがやっとというほどの狭い道で、とてもスリリングなドライブでした……。

どんな場所へ連れていかれるのかと少し不安になりました……。

農園に到着して行ったのは、齊藤さんが仕事の傍ら森づくりを行っているという山から丸太を運んでくるという作業。

切られたばかりの丸太は重たくて大変ではありましたが、
これまでの3日間で色々な情報が一気に入ってきて、頭がパンク寸前の状態だったので、
自然の中で体を動かすことができてとても気持ちよかったです。

作業終了後は、森を切り開いて作られた手作りサウナの試運転を体験させていただきました。
サウナで汗をかいた後は、水源から湧いた水を頭から浴びて、森の中で外気浴。
最初から最後まで、非日常的な体験過ぎて、なんだか不思議な気分でしたが、とても楽しい時間を過ごすことができました。

齊藤さんたち手作りの「森のサウナ」2号機。

作業中や休憩中、夕食をご一緒した時など、色々なお話を聞くことができ、神山町に移住してきた理由や今の働き方、暮らし方、生き方など、聞かせてくれる話のどれもがとても刺激的でした。

齊藤さんは、「前職時代、外国人の上司が『1日中ハンモックに横になって、本を表紙から背表紙までゆっくり読んでみたい……』という、自分がやろうと思えば明日にでもできそうな、そんなことも叶わないと言っている様子を見て、その仕事を続けていくことの限界を感じ、転職・移住を考えるきっかけとなった」といいます。

そんな、さまざまな経験を経て神山に移住した齊藤さんが、
今目指すところ(生き方)は「優雅な低空飛行」と仰っていたのが、とても印象に残っています。

今の齊藤さんの生き方は、これまで得た経験やスキルがあってこそのものなので、したいからと言ってできるような簡単な生き方ではありませんが、こんな風に生きられたらいいなあと、少し憧れてしまいました。

神山で見たものとこれからのこと

5日目の午前中は研修のおさらいや、色々な方から話を聞いた中での疑問点の確認などをし、頭の中の整理をしました(今現在まだ整理がついていない部分もありますが……)。

午後からは、神山で地産地食の取組を進めるフードハブプロジェクトが運営する食堂「かまや」でランチを食べ、神山塾の原点である江田集落の棚田やスキーランドホテル、稲飯神社などを巡って、神山町内での研修は全て終了となりました。

実は、私は約5年前にも半分プライベートのような感じで神山町を訪れたことがあり、
今回巡った施設や場所の中には、その時案内していただいたところもありました。
ですが、神山のほんの上辺の部分しか知らなかった5年前と、神山の歴史を知り、色々な人と出会い、話を聞きながら回った今回とでは、それぞれの見え方や印象が大きく変わりました。

この棚田も、前回来たときは「綺麗だなあ」というくらいの感想しかありませんでしたが、
この場所から神山塾がスタートし、これまで見てきた神山や塾生たちの今につながっているのだと思うと、とても大きな意味のある場所に感じられました。

何度見てもはっとするような江田集落の棚田。

数日間の滞在を通して、神山町には、地方の田舎町にありがちな閉塞感のようなものがなく、とても開放的であると改めて感じました。
それは、地元の人が20数年前から面白いことをやり続けてきた結果であり、
どんどん新しい人が入ってくることに対して、中にはもちろん反対意見もありながらも、
その状況に町の人々が「慣れた」ということがとても大きいのだと教わり、
継続するということの大切さや、その意味を改めて知りました。

浦幌町と神山町とでは、まちづくりに対するこれまでの流れが大きく違うため、良いところをなんでもかんでも取り入れるというのは難しいかもしれませんが、活かすためのヒントはたくさん得ることができたと思うので、職員としてだけではなく、一町民として自分の暮らす町を見つめなおし、良いところや悪いところ、将来どうしていきたいかなどを考え、行動に移せるようになりたいと思います。

研修初日に与えられた3つのテーマ
①自分を知る!
②自分の役目を見い出す
③浦幌町のより良い未来を描くため!

のうち、「②自分の役目を見出す」と「③浦幌町のより良い未来を描くため!」については、まだはっきりとした答えが見つけられていませんが、神山町で得た体験や刺激の中にもたくさんのヒントが隠されているはずなので、これからも日々考えることを続けていきたいと思います。

余談ですが、1週間弱の滞在中、あまりにも居心地が良かったので、仕事を辞めてこっちに移住してみるのもありかな、と思う瞬間もありました。
でも北海道に帰ってきて、「やっぱりこの広くて真っ直ぐな道が好きだ……!」となったので、
まだしばらくは北海道で生きていこうと思います。

最後に、リレイションの祁答院さん、馬渕さんを始め、研修中に出会った皆さん、本当にありがとうございました。そう遠くないうちに、今度はプライベートで神山町を訪れてみたいと思っていますので、その際はまたよろしくお願いいたします。お世話になりました!

浦幌町常豊地区の「千間道路」。

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神山塾生や、地域のキーパーソン、中学校の生徒さんetc…それぞれの地域や故郷への思いを「KATALOG」に綴ってくれています。

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